十日町市街地から車で30分、川沿いの山道を登っていくと伝統的な造りと「松代の四季」と題された絵が描かれた色鮮やかなシャッターとが融合した建物がある。
ここが十日町の伝統工芸の一つ「伊沢和紙」の工房だ

 

伊沢和紙1

 

伊沢和紙は強くて丈夫なので、昔は障子や壁紙、着物のたとう紙など雑用紙として大衆の生活の身近に根付いていました。現在は酒どころ新潟を代表する「久保田」の顔であるラベルを一部作っており、一日200枚ほどの紙すきを行っています。
しかし、実は伊沢和紙工房は50年間の空白の時間がありました。

 

伊沢和紙の歴史

 

伊沢和紙工房がある犬伏地域では和紙工房がいくつかあり、和紙作りは農業の一環という位置づけで日本人の生活の中に和紙は根付いました。大事な文章は和紙に書かれていましたが、洋紙の流入により和紙の需要が減っていくことに伴って紙すき産業も衰退の一途をたどっていきました。伊沢和紙工房も例外ではなく昭和30年、最後の職人、佐藤勇吉さんが工房を後にしたとき、その歴史は一度幕を閉じました。
その後50年間、伊沢和紙工房は犬伏地域の財産として静かに眠っていましたが、地域産業の復活を目指し平成15年5月に新しく工房が建てられ息を吹き返しました。現在は地域住民で結成された欅の会が中心となって地域一丸となって工房は守られています。

 

伊沢和紙2

 

そんな歴史を持つ伊沢和紙工房に立つのは山本貢弘さん、工房たった一人の職人です。

 

山本さんが職人になるまで

 

山本さんが伊沢和紙50年ぶりの職人となったきっかけは小学校の時につくった卒業証書。和紙の材料である楮を苗から育てるところから和紙作りを体験したことが、10年後和紙職人の道に進むほどの印象深い思い出になった。材料から作り、物に思いを入れることが山本さんにとって証書に忘れられないほどの価値を持たせたのかもしれません。
山本さんは犬伏地域の小学校に通った後しばらくその土地から離れました。しかしながら、毎週末は実家にかえるほどその地域のことが大好きで、いつか戻りたいと願っていたところに和紙工房復活の話を聞き職人となりました。この地域が好きな理由を聞いてみると「おおきな意味で家族なんです」と。離れていると「あそこの家のおばあちゃん元気かな」など、地元の人のことを気にかけている自分に気づいたそう。その一方で地元の人も山本さんを気にかけてくれる。この地元愛こそが山本さんの職人としての原動力の一つです。

 

一人前になるまでに

 

伊沢和紙3

 

50年間空白の時間があった工房の職人になるのは容易ではありませんでした。技術は先代の佐藤さんが引退される前に技術継承されていた「越後門出工房」から受け継ぎました。一か月ほどの門出工房での修行が終わると、たった一人工房で何度も試作を重ねる毎日。職人になる前に聞いていた話やイメージとの違いに戸惑うこともあったそう。しかし山本さん、「三年間はとりあえず頑張ろう」と苦難を乗り越えたのはやはり地元への愛、地元からの愛があったから。伊沢和紙には職人の思いだけでなく、工房がある地元の皆さんの思いもたくさん込められているのですね。

 

楮の一生は娘の一生

 

工房で使う楮の一部は山本さん自らが作っています。山本さんにとって楮を作る過程は娘を育てるような気持ちだといいます。

 

伊沢和紙4

 

離れたところで育てているので、工房横に植えている楮を目安にして仕事の合間をみて様子を見に来ます。紙すきに使えるように育てるためには出た芽をとらなくてはいけません。
放っておくとすぐさま、その芽が伸びてしまいます。まるで子供のように駄々をこねられているように感じると山本さんは目を細めて言います。ようやく収穫し皮をむき梳い出来上がり和紙となった姿は嫁に出すような気持ちなのだそう。

 

「和紙の長所だけでなく短所も知って、大切に使ってもらいたい」

 

伊沢和紙5

 

この二枚の和紙、見比べてみてください。
実は真っ白な和紙の方が時間も手間もかかります。右側の和紙の製作期間は4日ほどですが、真っ白な和紙は1週間ほどかかります。通常の工程に細かい不要物を丁寧に取り除き、雪にさらす工程が加えられるからです。雪ざらしをした和紙はなめらかな風合いを持つので日本画紙として使われます。

手塩に掛けて楮を育て、大切に思いを込めて梳かれた伊沢和紙を手にすると温かい気持ちになります。
伊沢和紙は繊維一本一本が長いことで強くて丈夫な特性を持ちます。この特性を生かして照明器具だけでなく新しい活用が見込まれます。

 

伊沢和紙6

 

まるで煎餅のような見た目の「伊沢和紙せんべい(五色5枚入り500円)」もアイデア商品として生まれた丈夫なメッセージカードです。「アイデア商品や新しい取り組みにはどんどんチャレンジしていきたい」山本さんの挑戦は続きます。

 

洋紙100年、和紙1000年。
思いのこもった和紙にあなたの思いを託してみませんか?

 

伊沢和紙工房
http://www.tokamachishikankou.jp/matudai/facilities/washi/